Kです。
先日、ふと頭の中を巡ったこと。
童謡で、あの歌ありますよね。
森の中で熊に出会ったお嬢さんの話で、花が咲いている道で熊に遭遇して一度は逃げろと言われて逃げたのに追跡されて待てと呼び止められ、落し物を渡されて一緒に歌うというストーリー。
昔から、歌詞の話の流れがいまいち釈然としない。
そう思いませんか?
逃げなさい、お待ちなさい、歌いましょ!?
童謡としての体裁で、子供向けシンプル&コンパクトにストーリーをまとめているから、わかりづらかったのだと思います。きっと本来の話はこうだったのでしょう、、、。
[1] 遭遇
鬱蒼とした亜熱帯雨林地帯、密林の奥深く。私はある政府からの命を受けて潜入、破壊工作のミッションを遂行中。息も詰まるような高湿度の熱気の中、迷彩服に身を包み、サブマシンガンを片手にゆっくりと歩を進めている。敵ゲリラ組織の警戒網に探知されぬよう、全身の神経を尖らせて進むこと約80時間経過。雇われ傭兵として転身してから3度目のミッション。失敗はすなわち死を意味する。そろそろXポイント近くのはずだ。
入念にカモフラージュされた鉄条網を発見。赤外線カメラでわずかな隙間から敷地内を確認する。エリア一面に広がる白い花畑。やはりここが敵ゲリラの資金源であるケシの花畑であることは間違いない。広大な敷地の奥にヘロイン精製を行うための工場らしき施設も確認できた。早くGPSで本隊にここの位置を知らせなくては。
背後から不意に声が飛ぶ。
「お嬢さん」
「!!」
一瞬で身を飜えし、銃口を向ける。
「熊」だ。先行部隊として一足早く潜入していた同じ傭兵部隊の男。その屈強な巨体と泥にまみれた髭面は、まさにコードネーム通り。
しかし、なぜこんなところで私に声をかけたのか。
警戒信号が私の背筋をつらぬいた。
[2] 逃走
「お嬢さん、ゲリラの連中に感づかれた。我々二人とも包囲される前に一旦本隊へ後退してくれ。俺はここでトラップを仕掛ける。」
頭上からザザッと葉の揺れる音。
ゲリラの哨戒兵だ。木の上から飛び降りてくる。気付かれた。
瞬時に私と「熊」は逆方向へ逃走を図った。
まだ銃声を響かせてはならない。低い姿勢で闇に潜らなくては。
[3] 追跡
周囲の気配から、まだ敵の包囲網に気付かれていないことが推測される。
「熊」が上手に処理したに違いない。
だが、まだ後方に退くわけにはいかない。
本隊へ敵のケシ畑工場の位置を知らせなくては。
泥の中に自らを沈め、身に付けたGPS発信器を指で探る。
無い。
さっきの逃走で落としたのか。
代替案を頭の中で巡らせていると、前方に人影が揺れた。
息を潜め、視界に意識を集中する。
「熊」だ。
なぜ後退している。非常事態が発生したのか。
[4] 落し物
「お嬢さん、これだろ。」
「熊」が私に小さなイヤリングを手渡した。
中にGPS発信器と自害用の薬物が仕込まれている。
「哨戒兵は俺が処理した。お嬢さんが後退したときに落としたのが見えたのさ。時間がない。ミッション遂行だ。」
私は発信器を作動させた。
[5] 遂行 そして 歌声
前方のケシ畑にサーチライトが照射され、続々と火の手が上がる。暗闇に赤く燃えさかる炎、そして灰色にたちこめる煙。
本隊からのヘリコプターが次々に敵ゲリラの施設を破壊していく。密林の闇が紅色に揺れる。
「さあ、ミッション遂行だ。いつものやつを頼むぜ、お嬢さん。」
私と「熊」が工場裏に回り込む。
敵の幹部があわてふためいて逃走してくるのを待ち構える。
大丈夫。敵からは逆光になっている。夜目にもなっていない。いつものシチュエーションだ。
私はサブマシンガンを構え、トリガーに指をかけた。
あと数分で乾いた銃声が歯切れよく鳴り響く。
胸が躍り、唇を舌がペロリと潤す。無意識のうちに口元からハミングが流れ出る。
Carl Orff "O Fortuna".
「お嬢さん、俺はお前さんのその歌声が聴きたかったのさ。」
そう言って「熊」はニヤリと笑い、爆破スイッチをカチリと鳴らした。
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そういうことだったのか、、、
森のくまさん。
K.
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